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退局を決意し、実行するまでの1年半のリアル

キャリア

退局は“思い立ってすぐ”できるものではない。

医師として働いていると、「医局に所属すること」はある意味“当たり前”の流れとして受け止めてしまいますよね。かくいう私も、大学卒業後は何の疑問も抱かずに地元の医局へ入り、日々の臨床業務や学会発表などに追われる毎日を送っていました。当初は「自分が医師としてキャリアを積むには、この道しかない」と考え、疑う余地すらありませんでした。

しかし、子どもが誕生してからというもの、私の中で大切にしたい優先順位が少しずつ変わっていったのです。仕事は大切だけれど、一度しかない子どもの成長の瞬間を見逃してしまうことへの後悔や、家族との時間をもっと取りたいという気持ちが大きくなりました。

そうはいっても、医局を離れる(退局する)というのは一大決心です。自分の将来のキャリアプランがどうなるのか、転職先は見つかるのか、そもそも退局という行為がどう周囲に受け止められるのか……さまざまな不安が押し寄せます。実際、私が最初に「退局したい」と考え始めてから、実際に退局が叶うまでには1年半もの期間とエネルギーが必要でした。

この記事では、そのリアルな体験を時系列で振り返るとともに、退局を考えている方々に向けた6つの教訓をお伝えしたいと思います。「退局に興味はあるけれど、なかなか一歩を踏み出せない」「医師としてのキャリアをどう築いていくべきか悩んでいる」という方の背中を、少しでも押せれば幸いです。

【時系列で振り返る】私の退局ストーリー

ここからは、私が実際に退局を意識し始め、最終的に行動に移すまでの流れを時系列に沿って振り返ります。医師としてのキャリアの中で医局という組織に守られる恩恵もあった一方で、そこから飛び出すことには相応の準備と覚悟が必要でした。

■ 2020年前半:子どもが生まれる

2020年の前半、ついに待望の子どもが誕生しました。もちろん嬉しさと幸せに満ちた時期でしたが、それまで仕事一辺倒だった私の価値観が大きく揺らぎ始めたのもこの頃です。

  • 子どもの成長を近くで見守りたい
  • 家族との時間を大切にしたい
  • この働き方で自分自身は満足できるのだろうか

そんな思いが頭の中をぐるぐると回り、「このまま医局に残る人生で本当にいいのか?」と疑問を抱き始めました。

■ 2020年後半:退局の選択肢が頭をよぎる

具体的なアクションはまだ起こせないまでも、「退局するかもしれない」と頭の片隅で考え始めるように。そこで、少しでも情報を集めようと、複数の医師向け転職サイトに登録しました。どんな求人があるのか、給与相場はどれくらいなのか、働き方や勤務地の選択肢はどうなっているのか……。

後から振り返ると、この“情報収集を早めに開始していた”ことが非常に大きかったと感じています。悩んでいるだけでなく、少しでも動いてみることで、転職市場の現状や自分が本当に望むキャリア像が見えやすくなりました。

■ 2021年1月:退局を初めて相談(失敗)

心のモヤモヤが強くなり、ついに上級医へ退局の意思を初めて相談しました。率直に言えば「辞めたいと思っている」と伝えたのですが、返ってきた言葉は次のようなものでした。

  • 「今辞めるのはもったいない」
  • 「一度医局を離れたら戻れなくなるかもしれない」
  • 「今後、困ることが多いよ」

案の定、説得されてしまい、私としては意思を伝えたつもりでも、強く押し返される形となりました。ここでぐっと引き留められて、悩みはむしろ深くなってしまったのが正直なところです。

■ 2021年4月:大学院入学

医局の意向もあり、「研究を深めておけば後々キャリアの幅も広がるだろう」という言葉を受けて、大学院進学へ。一旦は「新しいことが学べるなら」と自分を納得させました。しかし、モヤモヤが完全に消えたわけではありません。

大学院に通いながら臨床をこなしつつ、「このままの流れで進んでいったときに、自分はいつ満足できるのか?」という漠然とした疑問は残り続けました。むしろ進学によって忙しさは増し、子どもとの時間はさらに限られたものとなってしまったのです。

■ 2021年6月:本気で退局を決意

大学院に通い始めて数ヶ月。仕事と勉学に追われる毎日で、家族との時間は思うように取れず、子どもの成長を見逃しているような罪悪感だけが強まっていきました。そこでついに「このままでは人生そのものが後悔だらけになってしまう」と実感し、再度退局を真剣に検討。転職サイトのエージェントへも本気度を示して求人相談を始めました。

ここで重要だったのは、“譲れない条件”を明確にするという作業です。具体的には以下のような項目を洗い出しました。

  • 週○日勤務(オンコール対応の有無含む)
  • 診療科としての専門性は保ち、臨床重視
  • 勤務地は居住地域から〇〇で何分以内
  • 年収は○○○○万円以上

正直、最初から“理想の条件”をすべてクリアする職場を探すのは難しいだろうと思っていました。しかし、条件がブレないことでエージェントとのやり取りも的確になり、「本当に自分の望む働き方」を見失わずに済んだのです。

■ 2021年7-8月:説得ではなく“諦めさせる”という形で退局決定

再度上級医へ退局の意思を伝えた際には、前回のように流されないよう、「絶対に譲れない条件」や「なぜ退局するか」を明確に示しました。仕事と家庭の両立を強く望んでいること、医師としてのキャリアは続けていくものの、今の医局のシステムでは望む働き方が厳しいこと……。

最終的に「完全に納得されたわけではない」というのが正直なところでしたが、粘り強く話し合った結果、「引き留めを続けても私の意思が変わらない」と感じ取ってもらえたようで、いわば“諦め”に近い形で退局に合意してもらえました。

■ 2021年9月:転職先決定

転職サイトのエージェントからいくつかの求人を提示してもらい、条件面・勤務地・将来のビジョンなどを総合的に検討。最終的に「ここなら自分のやりたい医療ができそう」と思えるクリニック求人と縁がありました。

転職市場は本当に“タイミング勝負”だと実感しました。もしこの時点で私が動けていなかったら、後から同じ求人に応募しようとしても間に合わなかったかもしれません。特に好条件の案件はすぐに埋まることが多く、“一期一会”だと痛感しました。

■ 2022年3月:退局(予定より3ヶ月延長)

本当は2021年末で退局できればベストだと考えていました。しかし、医局側にも人員確保の都合があり、移行期間が必要ということで、最終的には3ヶ月延長して2022年3月末まで勤務を続けることに。もちろん「円満」とは言い難い状況で、ギクシャクした雰囲気は避けられませんでしたが、結果的には必要な着地点だったのだと思います。

退局を考える人へのメッセージ:6つの教訓

私が1年半にわたる迷いや葛藤を経て退局を実行した経験から、これから退局を考えている医師の方々に伝えたい教訓がいくつかあります。思い切って行動するためのヒントになれば幸いです。

転職活動は早めに開始して損はない

退局を考え始めたら、早めに転職サイトに登録して情報収集をすることを強くおすすめします。求人の傾向や年収相場などを把握しておくことで、いざ本格的に動くときにスムーズに進められるはずです。迷いの段階からでも“動きながら考える”ことで、気持ちが整理されることも多々あります。

転職案件は“タイミング勝負”。良い案件は待ってくれない

医師向けの転職市場は常に動いており、人気のある求人や条件の良い案件はあっという間に埋まってしまいます。「もう少し落ち着いてから…」と先延ばしにしているうちに、チャンスを逃してしまうことも珍しくありません。自分の都合を待ってくれるほど世の中は甘くないのだと痛感しました。

自分の“譲れない条件”を整理しておくべき

転職活動を進める中で「何を最優先にしたいか」があやふやだと、求人を見るたびに気持ちが揺らいでしまいます。勤務形態や年収、勤務地、診療科の方向性、ワークライフバランスなど、優先順位を明確にリストアップしておくことで、自分に合った転職先を探しやすくなります。エージェントへの依頼内容も具体的になり、結果的に満足度の高い選択ができるはずです。

退局はスムーズにいくとは限らない。時間的猶予が必要

退局を考えている方の中には、「思い立ったらすぐ辞めたい」と思う方もいるかもしれませんが、医局や病院側の事情もあるため、なかなかそうはいきません。半年から1年程度は見積もっておくのが現実的です。特に大学病院などでは人事や研究室の配属が絡んでくるため、交渉や引き継ぎには想像以上に時間がかかります。

交渉力も求められる。「いつ辞めるか」には駆け引きもある

退局のタイミングは自分だけで決められるものではなく、医局や病院側の都合が大きく影響します。こちらが一方的に「この日で辞めます」と宣言しても、後々のトラブルや現場の混乱につながるかもしれません。ある程度は譲歩も必要ですし、逆に「ここだけは譲れない」というラインを主張することも大事です。納得のいく落とし所を探すための交渉力は、医師としても今後役立つ能力だと感じました。

円満退局ばかりじゃない。ある程度“嫌われる覚悟”も必要

自分にとっては前向きな選択でも、組織に残る人たちにとっては「見捨てるのか」と捉えられる可能性もあり、気まずい雰囲気を避けられないこともあります。実際、私も退局時には居心地の悪さを感じました。しかし、「自分の人生の責任を自分で取る」のは当たり前のこと。全員が全員、祝福して送り出してくれるわけではありませんが、後悔のない判断をするためには、ある程度“嫌われる覚悟”も必要だと思います。

医局を辞めたら、意外と世界は広かった

長い時間をかけ、さまざまな壁を乗り越えてようやく退局が実現したとき、正直なところ「本当にこれでよかったのかな?」という不安がゼロになったわけではありません。ですが、退局後の生活は想像以上に充実しています。転職先は医局時代よりも勤務日数が少なく、夜間のオンコールもなかったため、子どもと過ごす時間が大幅に増えました。

もちろん、医局に在籍していた頃のように研究の最先端に携わる機会や、学会発表の楽しみが減ることに寂しさを感じる瞬間はあります。それでも、「家族との時間を優先したい」という思いが強かった私にとっては、今の働き方に十分満足しています。

何より、“後悔しない準備”を自分なりに納得いく形で行えたことが大きいと感じます。転職サイトの活用をはじめ、早期に情報収集を行い、医局と交渉する際にも時間をしっかりかけました。退局の決断はあっさり実行できるものではなく、時間と労力が必要です。でもそのプロセスがあったからこそ、「辞めてよかった」と思えるのです。

もし、今「退局したい」と考えながら不安で踏み出せずにいる方がいたら、ぜひ最初の一歩として情報収集を始めてみてください。転職エージェントに相談するのもアリですし、信頼できる同僚や先輩に話をしてみるのもよいでしょう。動きながらでしか見えてこない景色があります。

医師としてのキャリアは多様化しており、医局を離れても活躍の場は広がっています。大切なのは、自分の人生の主導権を自分で握り、後悔のない選択をすること。私は、あなたの選択が「よかった」と言える未来につながることを心から願っています。少しずつで大丈夫。ゆっくりと前に進んでみてください。世界は、思っているよりもずっと広く、あなたを待っています。

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