近年、専門知識やスキルを活かして副業に取り組む医師が増えています。そして、節税効果や社会的信用の向上などを目的に、副業のための法人(いわゆる「プライベートカンパニー」)を設立するケースも少なくありません。
しかし、忘れてはならないのは「法人設立はゴールではなく、スタートライン」であるということです。設立手続きを終えただけでは、そのメリットを最大限に活かすことはできません。設立後にどのようなアクションを取るかで、数年後、数十年後の手残りは大きく変わってきます。
この記事では、医師が副業法人を設立した後に「絶対にやるべき」と言っても過言ではない、具体的な節税・資産形成のアクション、特にオトクな国の制度活用について解説します。
この記事を読むことで、あなたは以下の4つのテーマについて理解を深め、賢く節税・資産形成を進めるための具体的なヒントを得られるはずです。
【基本のキ】役員報酬の最適化と経費活用で手取りを最大化!
概要
法人設立後の節税・資産形成の基本は、「役員報酬」と「経費」を適切に管理することです。役員報酬とは、法人が役員(この場合はご自身)に支払う給与のこと。経費とは、法人の事業活動に必要な費用のことです。
メリット
- 役員報酬の最適化: 個人としての所得(給与所得)と法人としての利益(法人所得)に所得を分散させることで、それぞれに適用される税率(所得税・住民税と法人税)を調整し、トータルでの税負担を軽減できる可能性があります。
- 経費活用: 事業に関連する支出を経費として計上することで、法人の利益を圧縮し、結果として法人税の負担を抑えることができます。
ポイント / 医師の場合
- 役員報酬の決め方: 個人の所得税・住民税・社会保険料と、法人の法人税負担のバランスを考慮して設定する必要があります。所得が増えれば個人の税負担が増え、役員報酬を抑えれば法人の利益が増えて法人税が増える可能性があるため、シミュレーションが重要です。
- 医師の副業で経費にしやすいもの:
- 関連分野の学会参加費、セミナー受講料
- 専門書籍、医学論文の購読・購入費
- 研究開発にかかる費用(実験器具、ソフトウェアなど)
- 業務で使用するパソコン、タブレット等の購入費
- 事務所として使用するスペースの家賃、光熱費(自宅の一部を利用する場合は按分計算が必要)
- 業務で使用する車両の購入費、維持費、ガソリン代(プライベート利用分との按分が必要)
- 接待交際費(事業に関連するもの)
- 経費計上の注意点:
- 領収書・レシートの保管は必須です。
- 事業との関連性を明確に説明できることが大前提です。「これは何の費用で、どのように事業に役立ったか」を記録しておきましょう。
一言
まずはここから! 役員報酬の設定や経費の範囲については、判断が難しい部分も多いため、必ず税理士などの専門家と相談して、ご自身の状況に合った最適なバランスを見つけましょう。
【将来への備え】掛金が全額所得控除!小規模企業共済で退職金を準備
概要
小規模企業共済は、国が作った「経営者のための退職金制度」です。個人事業主や小規模企業の経営者・役員が、事業をやめたり役員を退任したりした際に、それまで積み立てた掛金に応じた共済金を受け取れる制度です。
メリット
- 掛金が全額、個人の所得から控除される: これが最大のメリットです。例えば、年間84万円(月額7万円)を拠出すれば、その全額が課税所得から差し引かれるため、所得税・住民税が大幅に軽減されます。
- 将来受け取る共済金も税制優遇: 退職金として受け取る場合は「退職所得扱い」となり、通常の給与所得などと比べて税負担が軽くなる「退職所得控除」が適用されます。
ポイント / 注意点
- 加入資格: 副業法人の常勤役員である必要があります。(他の要件もありますので、詳細は中小機構のサイト等でご確認ください)
- 掛金: 月額1,000円から70,000円までの範囲で自由に設定できます(500円単位)。
- 注意点: 原則として、自己都合での任意解約の場合、掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満だと元本割れします。iDeCo(個人型確定拠出年金)との併用も可能なので、ご自身のライフプランに合わせて検討しましょう。
一言
節税しながら将来の自分への「仕送り」ができる、非常に有利な制度です。加入資格があるなら、活用しない手はありません。
【節税&リスク対策】倒産防止共済(経営セーフティ共済)は節税目的でも有効?
概要
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、本来、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
メリット
- 掛金が全額、法人の損金(経費)になる: 年間最大240万円(月額最大20万円)まで拠出でき、その全額を法人の損金として計上できるため、法人税の節税効果があります。掛金の総額は800万円まで積み立て可能です。
- 万が一の際の借入制度: 加入後6ヶ月以上経過していれば、取引先の倒産といった事態が発生した場合、無担保・無保証人で掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで借入れが可能です。
ポイント / 注意点
- 税効果は「繰り延べ」: 掛金は損金になりますが、将来、共済を解約して解約手当金を受け取る際には、その全額が法人の収益(雑収入)として課税対象となります。つまり、税金の支払いを将来に繰り延べている効果が主です。出口戦略(解約時期や解約金の使い道)を考えておくことが重要です。
- 元本割れリスク: 加入後40ヶ月未満で任意解約すると、元本割れします。
- 医師の副業法人の場合: 主な収入源が自身の役務提供である場合、取引先の倒産リスクは低いかもしれません。しかし、損金算入による節税メリットだけでも十分に加入を検討する価値があると言えます。特に、法人の利益が多く出そうな年度に活用すると効果的です。
一言
「節税」と「万が一の備え」を両立できる、法人にとってお守りのような制度です。税負担の繰り延べ効果をうまく活用しましょう。
【応用編】自宅が経費に?社宅制度で家賃負担を賢く軽減!
概要
社宅制度とは、役員が居住する住宅を法人が契約(賃貸または購入)し、役員から一定の家賃(賃料相当額)を受け取ることで、役員の住居費負担を軽減する福利厚生制度の一種です。
メリット
- 法人の損金が増える: 法人が支払う家賃(または減価償却費や固定資産税等)と、役員から受け取る家賃との差額が、法人の損金として認められます。
- 個人の手取りが増える効果: 役員は、自身で直接家賃を全額支払う場合に比べて、法人から給与として受け取る代わりに、低い家賃負担で済むことになります。これは実質的に、個人の可処分所得が増えるのと同じ効果があり、所得税・住民税の負担軽減につながります。
ポイント / 注意点
- 家賃設定ルール: 役員から徴収する家賃(賃料相当額)は、税法で定められた計算方法に基づいて適切に設定する必要があります。この計算が複雑で、誤ると税務リスクが生じます。
- 賃貸・持ち家: 法人が賃貸物件を借り上げて役員に貸す方法と、法人が物件を所有して役員に貸す方法があります。持ち家を法人に貸し付ける(法人が役員から借り上げる)形でも検討可能ですが、手続きはより複雑になります。
- 手続き・管理: 契約関係や家賃の徴収など、手続きや管理がやや煩雑になる可能性があります。
- 税務リスク: ルールが細かく、税務調査で指摘されやすいポイントでもあります。導入前には必ず税理士に相談し、適正な運用方法を確認してください。
一言
適用できれば節税効果は非常に大きいですが、ルールが複雑でハードルはやや高めです。導入を検討する際は、専門家への相談が必須です。
まとめ
今回ご紹介した4つの制度・方法は、医師が副業法人を設立した後に、賢く節税し、効率的に資産を形成していくための非常に有効なツールです。
- 役員報酬・経費: 節税の基本。専門家と相談し最適化。
- 小規模企業共済: 個人の節税と退職金準備に。
- 倒産防止共済: 法人の節税(繰り延べ)とリスク対策に。
- 社宅制度: 法人・個人の両面で節税効果大(ただし要専門家相談)。
これら全てを一度に完璧に行う必要はありません。しかし、これらの制度を知っているか知らないか、活用するかしないかで、将来の資産状況に大きな差がつくことは間違いありません。
大切なのは、ご自身の法人の状況やライフプランに合わせて、どの制度を、どのように活用するのが最適かを見極めることです。そのためには、信頼できる税理士に相談し、専門的なアドバイスを受けることが不可欠です。
法人設立というスタートラインに立った今、次の一歩として、まずは情報収集と専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。
(補足)免責事項
本記事は、医師の副業法人における節税・資産形成に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個人に対する税務、法務、財務に関する助言ではありません。記載されている情報に基づいて具体的な判断を行う際には、必ず税理士、弁護士、その他の関連専門家にご相談ください。制度の詳細は変更される可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。


